以下两段试译是不同类型的小说片段,有兴趣的话可以择其一做即可

第一段
外は闇である。隣の森の杉がぞつくりと冴えた空へ突つ込んで居る。お品の家は以前から此の森の爲めに日が餘程南へ廻つてからでなければ庭へ光の射すことはなかつた。お品の家族は何處(どこ)までも日蔭者(ひかげもの)であつた。それが後(のち)に成つてから方々に陸地測量部の三角測量臺が建てられて其上に小さな旗がひらひらと閃(ひらめ)くやうに成つてから其(その)森が見通しに障(さは)るといふので三四本丈(だけ)伐らせられた。杉の大木は西へ倒したのでづしんとそこらを恐ろしく搖(ゆる)がしてお品の庭へ横たはつた。

第二段
「じゃ芝居はもう御已(おや)めね。岡本へは私から断って置きましょうね」 
 津田は一寸振り向いた。 
「だから御前は御出でよ、行きたければ。己は今のような訳で、どうなるか分らないんだから」 
 細君は下を向いたぎり夫を見返さなかった。返事もしなかった。津田はそれぎり勾配の急な階子段をぎしぎし踏んで二階へ上った。 
 彼の机の上には比較的大きな洋書が一冊載せてあった。彼は坐るなりそれを開いて枝折の挿んである頁を目標に其所から読みにかかった。けれども三四日等閑にして置いた咎が祟って、前後の続き具合が能く解らなかった。それを考え出そうとするためには勢い前の所をもう一遍読み返さなければならないので、気の差した彼は、読む事の代りに、ただ頁をぱらぱらと翻して書物の厚味ばかりを苦にするように眺めた。すると前途遼遠という気が自から起こった。